啓発舎

マジすか? マジすよ

麻布で蕎麦を食う

昼前から麻布。

有栖川の上のほうから、ぼうやたちが三々五々歩いてくる。それを見ていたら、なんとなく懐かしくなって教員室にたどりついた。
英語科のT氏がいた。ども、卒業生の☆◇です、と名乗ると、ああ52年卒の、と覚えていてくれたのには、少しぐっときた。なんでも、一番印象に残る年度だそうな。
 話しこむ。昔と今の生徒の違いなど。
 近いうちに、ということになったが、ほんとに声をかけてみようかしらん。
 校長先生にも、たまたま通りかかったので、あいさつ。杖をついている。いやあ、ちょっと、とのこと。ご自愛を、と、早々に辞す。

 有栖川ウエストのイタリアン。
 昔、三笠会館がはいっていて、結構よく利用した。今、エノテカがやっている。
 セパージュと読むのか、店のカードには日本語表記がない。
 味は、可もなく不可もなし。
 イタリアンは、完全に、そういう時期にさしかかったな。
 料理自体の限界か。
 メインが弱いというのは以前から言われていたが、promo piattoも、どうだろう、パスタを任意の食材であえ、オリーヴオイルをしたたらせる、という枠内である限り、この先、長い倦怠期、という感じはする。

 散歩。

 で、懲りずにさ和長。

 客は、お父さんと小さな娘の親子。及び女一人、の二組。
 親子連れは、父親は綺麗な日本語を操るも、娘との会話はともすると英語になる。
 「▲◎ちゃん、これたべる」
 「NO いらない」というかんじ。
 父親が、一生懸命娘に日本語を話させようとしていることがわかり、ほほえましい。

 で、もう一組だ。
 黒っぽいいでたち。うつむき加減。髪長し。
 なんだろう、中央線沿線というイメージ。個人的か。
 いやその、高円寺あたりをうろついていると、この種の御仁によく出くわすのだ。
 女占い師風。

 とろろそばを注文した。
 と、「蕎麦猪口、もう一つください」と。
 店の女の人、一瞬当惑するも、かしこまりました、と。

 蕎麦通とみた。女の蕎麦通を目撃するのは初めてだ。

 蕎麦猪口がきた。

 女、とろろのはいった猪口、というか小鉢と、あとから来た蕎麦猪口につゆをそれぞれ少しずついれ、蕎麦をたぐり、それぞれの猪口にかわるがわるつけ、食う。

 すすらない、もくもくと噛んで。
 沈黙の行だ。
 一瞬の休みもなく、儀式は淡々と進む。

 店の人が、完全に引いているのがわかる。

 食べ終わるや、そそくさと席をたつ。

 あたりの空気が少し寒くなるようだった。

 
 気を取り直し、遠慮なく、ずーずーいわせて蕎麦を食う、ビールを飲む。
 店の人が、「ひまですから」とビールを注ぎに来た。

 それだけのこと。