昨今の音楽業界、特にCD市場の不調要因として、インターネットや携帯電話、とりわけスマートフォンの普及に代表されるメディア環境の変化・競合の登場以外に、視聴者の音楽離れが進んでいるのではないかとする意見がある。そこで今回は日本レコード協会が2020年4月に発表した「音楽メディアユーザー実態調査」の最新版となる2019年度版から、「主に音楽と対価との関係から見た、年齢階層・経年における音楽に対する姿勢、考え方の相違」について見ていくことにする。音楽の入手ルートも多様化し、無料で楽しめる手段も増える中、年齢階層による考え方の違いにはどのような動きがあるのだろうか(【発表リリース:2019年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書公表】)。
 

「音楽離れ」らしきものの動き


今調査は2019年11月に12歳から69歳の男女に対してインターネット経由で行われたもので、有効回答数は3174人。男女別・年齢階層・地域別(都市部とそれ以外でさらに等分)でほぼ均等割り当ての上、2015年度の国勢調査結果をもとにウェイトバックを実施している。また設問の多くは過去半年間を対象に答えてもらっているため、2019年6月から11月時の動向が反映されていることになる。

音楽への興味関心のあり無し、その気持ちをきっかけにどのような行動に移すかについては人それぞれ。また、同じ気持ちを持っていても、表現手段も多様におよぶ。今件では音楽との付き合い方に関して、新曲への関心の度合いや対価の支払いの面から、大きく次の4つに区分を設定。回答者には自分の音楽への姿勢として、もっとも当てはまる選択肢を選んでもらった。

・有料聴取層:
「音楽を聞くためにCDや有料音楽音源など音楽商品を購入したり、お金を支払ったりしたことがある」(定額制音楽配信や有料のコンサートへの参加も含む。通信料金や聴取機器の購入は除く)

・無料聴取層:
「音楽にお金を支払っていないが、無料動画サイトやテレビなどで新たに知った楽曲を聴いた経験がある」

・無関心層(既知楽曲のみ):
「音楽にお金を支払っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴かず、新曲は(テレビなどでも)聴かない」

・無関心層:
「音楽にお金を支払わない。特に自分で音楽を聴かない(音楽には特段積極的な好意、関心を持たない。音楽への本当の意味での無関心派)」

全体的な経年動向としては少しずつだが「音楽へ対価を支払う層」が減り、「既知の曲のみを聴きまわす」「音楽そのものに無関心」の人が増えている。2014年は未調査のために1年分が空いているが、それを考慮しても2015年には大きな「有料音楽離れ」だけで無く「音楽離れ」が進んだ。しかし2017年では漸減していた「有料聴取層」が初めて前年比で増加し、大きな懸念が持たれていた「音楽に対価を見出せない雰囲気の浸透」が和らいだ。


↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの

直近の2019年では「無料聴取層」は前年比でほとんど変わらず、少なくとも新曲に興味を感じる「無料聴取層」と新曲には興味を示さない「無関心層(既知楽曲のみ)」が減り、その分が音楽そのものに関心を示さない「無関心層」にシフトしたような流れとなっている。「有料聴取層」に大きな変化が無かったのは幸いだが、「無関心層」が大きく増えたのは音楽ビジネスの観点では憂いを覚える結果に違いない。

現状で対価を支払わない層でも新曲に興味を持つのなら、今後「魅力ある、お金を出す価値があると認めた新曲」を購入し、「有料聴取層」に転じる可能性はある。「新曲にすら興味を持たない」場合でも、音楽にさえ興味を持っていてれば新曲に魅かれて対価を支払いたくなる可能性はある(例えば既知曲のリバイバルなど)。しかし「無関心層」は対価を支払うような機会が生じることすら期待できない。この3年ほどは「無関心層」の値は減っていただけに、2019年の増加は大いに気になる動きに違いない。

若年層で進んでいた「音楽離れ」だが


これを年齢階層別に区分した上でグラフ化したのが次の図。直近となる2019年分のみを別途抽出したものも併記しておく。


↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの(属性別)


↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの(属性別)(2019年)

音楽業界にとって一番のお得意様は学生(直近2019年では各学校種類別の詳細値が出ているが、経年変化を見るために加重平均を行い独自に算出している)。その学生でも少しずつだが「有料聴取層」が減り、「無料聴取層」ですらも減少し、「無関心層」などが増加していた。2017年では大きく「有料聴取層」が増加したが、直近年の2019年では2018年に続き前年比でわずかな減少を示している。

20代(社会人)から30代も似たような動きだが、音楽に関心を持たない「無関心層」が大きく増えているのはよい傾向とはいえない。

40代以降においては2015年の急落以外は「有料聴取層」にさほど変化が無く、2016年以降は前年比で増加する動きすら見受けられる。2015年の急落もよく見直すと、「無関心層」の急増は30代以降だが、「有料聴取層」の急減は40代以降で生じており、音楽に対する姿勢が30代から40代で大きな変化を見せていた感はある。

「無関心層」は音楽そのものへの関心が薄れてしまっている層で、音楽業界にとってこの層の増加は非常に由々しき事態に違いない。直近2019年ではおおよその年齢階層で増加しており、特に20代(社会人)では10.0%もの減少を示してしまっている。

音楽業界にとっては直接の売上に貢献するのは「有料聴取層」に他ならないことから、この層が多い方が好ましい状況となる。一番避けたいのは「無関心層」の増加。しかしそれとはまったく逆の動きを示しているのが実情で、特にお得意さまとなる若年層に強い動きが生じている。音楽業界全体として、どのような形で状況を改善していくのか、今後の動向が気になるところだ。