第1763回 定期公演 Bプログラム
2013年10月9日(水) 7:00pm
サントリーホール
指揮:ロジャー・ノリントン
ピアノ:ロバート・レヴィン
グルック(ワーグナー編)/歌劇「アウリスのイフィゲニア」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19
ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
今帰ってきたところ。11時20分だ。
素晴らしいコンサートでした。
一曲目の出だしの弦の響きで、今夜は期待できると感じました。
澄んだ、端正な響き。
もちろんノンビブラート特有の音ではあるのだが、アンサンブルがしっかりしている、というようなことをN響に言うのもなんだが、どうしても前回のあれこれが、当方の裡に残響として残っているようで、こんなあたりまえのことを言ってしまう。
はい、前回のことはおしまい。
で、田園。
自分でも本番5回ぐらいやった、演奏会でも幾度きいたことか。ベートーヴェンの交響曲の中でも、当方にとって、この曲は、ちょっと特別であったりする。
でも、今夜ほどの新鮮なおどろきは、かつてなかった。と言い切ってしまおう。
もちろん、ノリントン氏の解釈が独特ということはある。
ノリントン氏については、実は去年のブラ2がピンとこず、今夜は全然期待していなかった。
この種の演奏は、肌にあわないな、と感じると、ギミックだけが鼻につく、ということになりがちだ。
ブラームスということもあったかもしれない。
まあ、それは措いて。
冒頭は衝撃ですよ。
あまり大げさな物言いはしたくないのだが、心底びっくりした。
この曲口火を切るのは、実は、チェロだ、おいらの楽器だ。
チェロがFの音を伸ばして、それにヴァイオリンが例の出だしのフレーズをのせる。
誰もほとんどきがつきませんね。
それぐらい、この冒頭は何気なく、ピアノで、そっと発音するのですよ。
練習の初回で、この出だしは、たいてい、やり直しされます。ほとんどお約束です。
「はい、いまガリガリいった人、わかってますね、頭からもういちど」てな感じさ。
で、今回は。
いきなり、ガリガリどころか、冒頭のFにアクセントですよ。
藤森さん、しくじったか、と思いましたよ。
という衝撃の出だし。まあ、はったりかましたわけですね、ノリントンさん。
一楽章は、ロックですね。
グルーヴすれば勝ち、というテンポダイナミクス、アクセントのつけかたで、実際N響のメンバーは十分のって演奏しており、順当に勝ちをおさめたとジャッジしていいでしょう。
チェロがオスティナート ファ ドシ♭ラ ファ をガリガリ弾き、盛り上げます。
1stと2ndのかけあい、Vlaも加わってたかまっていきます。
ま、なんというか、ユニークではあるのだが、ちゃんと田園してます、音も美しいです。
田園にノンビブラートははまる。
あと、この曲、さっきオスティナートっていったけど、同じ音型の繰り返しにメロディーがのるという構成が多く、一楽章二楽章はほとんどそうだ、といってもいいと思うのだが、これ、ロックの「リフ」と一緒だよね。
そういう意味でもロックの解釈は、ありか、といま思った。
ともあれ、美しい演奏でした。
二楽章もチェロから言いたい。
トップとトップサイドの二人が、ひたすら、いま言った繰り返し音型を弾きのころはピティカートでつきあう、という仕組みなのだが、ノリントンさんは前列の二人以外は、この楽章お休みさせていました。
アンサンブルが繊細になって、いいと思います。
ファゴット冥利のあの旋律のところでは、なにやら2ndVnをかまっていました、それとVla。
2ndがレース模様みたいな合いの手をいれるところです。
それこそ何度聞いたかわからないこの楽章ですが、新鮮な驚きでした。これも美しい。
三楽章は、まとも、というか、もともと舞曲なので、ノリントン解釈が一般的な解釈と概ね一致というところか。
嵐はリアリズム。ティンパニ、固いばちで、宗達の雷神さまも泣いて喜ぶような雷サウンドを奏でていました。
終楽章の至福感。ノンビブラートの清澄な響き。
フィルハーモニーを読むと、ノリントン氏の「最高に面白いゲームみたいなもので、そんな風にやりたいんです」という発言が紹介されていたが、確かに、そういうアプローチであるのだが、それは誰が聞いてもわかるのだが、その結果、清澄でストイックな、却って、ほとんど、厳しい、とか彫琢とかいう言葉のほうが似つかわしいような時空が出来した、ように思う。