京都に、お能を観にいったら、完売、と、門前払い。
朝7時半に起きて、電車乗り継いでやってきたのに。
「当日券がある、とちらしには書いてありましたが」
「その分も売り切れなんです」
「遠くからきたんです、なんとかなりませんか」
「どなたかのお弟子さんですか」
「そういうわけでは・・・」
「あいにく・・・」
慇懃そのものの対応に、食い下がることをやめました。
朝9時半から、ぽっかり時間が空いてしまった。
トホホ。
気を取り直して、風の向くまま気の向くまま、寅さん気分で一日過ごそう。
例によって、自然に、南禅寺方面に足は向かう。
どうしても瓢亭の前を通りかかるので、入ってみる。
「へえ、あいにく一杯どすえ」とか、そんなかんじで、断られた。
朝粥4000円たあ、どういうことだ、やらずぼったくりとは、このことだ、売りはゆで卵と鯛のお造りだけじゃねえか、などと心の中で悪態をつきつつ、南禅寺に。
初冬の三門。いいですね。
こないだ、紅葉の真っ盛りに家族と来ましたが、その時は、紅葉のはっぱより人の数のほうが多かった。
冬の朝の人気のない南禅寺。
人気は、にんき、と読めてしまう。ニンキがないのではない。ヒトケがないのだ。
ここから蹴上までの道も好きだ。
地下鉄に乗ろうかと思ったが、ふと、思いついて、ウエスティンホテルに。
思いついたら、なんでもやるぞ、今日は。
実は、ここのランチビュッフェがお値打ちだ、というのを誰かが言ってたのを聞きかじっていた。
ロビーはクリスマスの飾りつけで、いいかんじでした。
ビュッフェもはじまりまでは1時間以上ある、と。
目標、427回断られること、と決めた、この時。
東山まで、歩いたさ。
青蓮院に向かって右に曲がる角の少し手前に、以前業者に紹介された物件があるので、のぞく。スカ。
青蓮院の楠木さまを仰いで、少し気分を直し、智恩院を通り過ぎ、円山、八坂、経由、清水寺に手前まで行ったぞ。やけくそだ。春に祗園閣に来た時以来だ。
観光客はあまりいなかったが、出たな妖怪=舞妓のお化け、は昼間から徘徊していた。
頼む、100円寄付するから、素人一日舞妓体験の営業だけは、なんとかしてくれないか。
京都市もなにをやってるんだ、環境整備は高さ制限だけじゃないぞ。まず、こいつらを取り締まらないと、観光都市京都の未来はないぞ。
五条に下るのは、ごみごみしていやだったので、全く意味なく、今来た道をもどる。
菊の井か、和久傳か、と迷いつつ(うそ)、浜作で昼。
「この、特製なんとか湯葉のころもがどうしたこうした御膳、をお願いします」
「天定ですね」
てんぷら定食を食いました。1800円。品書きも「天定」に直せよ。
今日は、最高。こういう日もある。次になにが起きるか、興味津々です。
長楽館。いつも素通りだったが、なんとなく、毒を食らわば、ということで、はいってしまった。
というより、外で品書きをチェックしてたら、ドアマンが扉を開けて、なにをしてる、早く入れ、と無言で語りかけてきた、というのが、より正確な状況分析だ。
ホットワインとアミューズを注文。アミューズは鴨。ワインとよくあって美味。
ここでは、なにも起きないか、と思ってレジに向かうと、豪華な洋装の奥様がレジに鎮座して「1000円いただきます」。
この感じ、どっかで経験したぞ。そうだ、フランソワだ、高島屋のそばの。キャッチバーのとなりの。
長楽館とフランソアは、奥様レジの両横綱だ。品よくとりすました感じが俳味だぞ。元気でるぞ。
雨が降る、風も強い、というピンクフロイドが聞えてきそうな予報だった。それで、一日篭もれる能楽鑑賞でも、と思い立って、冬の京都まで出かけてきたのだが、小春日和うららかな天気、なにが、能楽でございだ、この天気なら、外の空気すってるほうが余程気がきいてるぞ、と、ざまあみろ気分で四条まで。
新京極の「スタンド」は満員、ジュンク堂で立ち読みしていたら、青木まりこ現象(詳しくは本の雑誌」参照)が起きたので、慌てて、阪急電車に乗って帰りました。
最後に、ひとつだけいいことがあった。
特急はペアシート。座って出発を待っていると、涼しい声で「あいていますか」と。
年配の美しい御婦人でした。品のよい和装。
「はい、もちろんです」
隣りからいい香り。
降りるまで、どぎまぎ状態。
人間の美しさは、内面から、ですね。特に、ある程度年とると、隠せないです。
気品というのは、周りに漂うものだ、と、しみじみ思いました。そして、周りを豊かにする。
というわけで、図らずも、なんの目的もない、ひたすら無為な一日を過ごしました。
とことん面白かったです。病みつきになりそう。