啓発舎

マジすか? マジすよ

今日、ロバート・アルトマン氏のご逝去の報に接しました。

というわけで、今夜はゴスフォード・パークです。

2002年の秋口、封切りになったのを観にいった。日頃、映画館などほとんど足を運ばなくなっていたのだが、朝日新聞の映画評と、恵比寿のガーデンシネマでかかっている、ということで出かけたように記憶している。
恵比寿のガーデンプレイスは、何故だか気持ちの落ち着くところで、近くに行く用事があると、たいていここに寄り道した。ここの映画館は座席が大きく、広さもほどよく、好きな映画館。

 
 間違いなく、私のオールタイムベストテンに入る作品でした。

 脚本が精緻。キャスティングが凄い。で、監督がアルトマン。

 キャスティングについては、イギリス演劇界のこれはという役者を正確にピックアップしているそうで、この映画封切り後しばらく、この映画に出演しなかった俳優が自己紹介する際「ゴスフォードパークにキャスティングされなかった○○です」と自虐ネタに使っていた、というエピソードがあるようだ。
 ヘレン・ミレンマギー・スミス、クリスティン・スコット=トーマス、エイミー・ワトソンの女優陣。
 クライヴ・オーウェン、リチャード・E・グラント、ジェームズ・ウィルビー、アラン・ベイツ以下の男優たち。
 だいたい好きな順にならべてみました。


イギリス郊外の貴族の大邸宅を舞台に、屋敷の「階上」に住む上流階級と「階下」の使用人たちを対照的に描いた映画、と。

 上流階級の世界だけを描いた映画は数多あるが、使用人にスポットを当てたところが、この映画の画期的なところだと思う。
 で、文句なく、その使用人世界が、いい。
 最後のほうの、ヘレン・ミレンクライヴ・オーウェン(実の母子、息子オーウェンはそれにきづいていない)のやりとりとか、同じくヘレン・ミレンとアイリーン・アトキンスの対話(実の姉妹)とか、しみじみ泣けます。実際、終了後となりの席で、品のよい御婦人が涙をぬぐっていました。古い国の階級社会の大きな枠組みの中で生きていく諦観、悲しみ。

この映画のほんとの主人公は、イギリスという国の社会の重層的な分厚さです。古い国にはこれがあります。

 いつもながらクリスティン・スコット=トーマスの迫力は凄い。二の腕のたくましさ。

 初日のディナーでトム・ホランダー扮する「中佐」がスーダンの軍隊に靴を履かせる事業についてマイケル・ガンポン演ずる屋敷の主人に売り込むところは、明らかにイーヴリン・ウォーの「黒いいたずら」のパクリだと思う。この点、私の知る限り誰も論評していないようなので、この際言っとく。

映像の細かいところ、登場人物のセリフまわし、に物凄い情報量があります。
DVDを買い込んで何回か自宅でも観たのですが、そのたびに新たな発見があります。

召使役のリチャード・E・グランドの表情の演技など、こたえられないです。

ジェームズ「モーリス」ウィルビーも、体裁だけをとりつくろう男を正確に演じていました。
朝ベッドで悪態をつきながら朝食をとる伯爵夫人マギー・スミス。この人、昔秘書とか割合地味な脇役をやっていましたよね、エリザベス・テイラーの出た大空港ものとかで。
クライヴ・オーウェンは、抑えた演技をしていました。色っぽいです。
登場人物のひとりひとりが、きちんと人生しています。

 さまざまな登場人物が、おかれた立場、背景から振舞うさまをとらえるアルトマンのまなざしは、シニカルなところもあるけれど、底流するものは暖かい。

 改めて、心より哀悼の意を表します。