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『AI救国論』キャリアの獣道と開かれた学習環境

本書『AI救国論』の第一章は「日本衰退の責任は若手の実力不足にある」という刺激的なタイトルが付されている。老人が若者への責任転嫁で書きなぐったような本なら読むに値しないが、31歳にして東京大学准教授でありながら、代表取締役として株式会社Daisyを経営する大澤昇平による著となると読まないわけにはいかない。

AI救国論 (新潮新書)
作者: 大澤昇平
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2019/09/13
メディア: 新書
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今の日本は既にテクノロジストを優遇する実力社会であるが、残念ながらそこに若手が付いてこれていない。日本が年功序列なのではなく、教育が古いので若手に実力がないだけである。

 「日本の競争力が低いのは、実力社会の中にあって若者に実力がないからである」と舌鋒鋭く一刀両断する。年寄りに文句を言ったり責任転嫁をするのはやめて、若者よ自分たちの力でなんとかしようではないかという咆哮は、若手以上年寄未満の四十代半ばには何とも小気味良い。

もちろん、若手を吊るしあげるだけではなく、その若者の実力不足の構造的な問題、例えば貴重な高校生時代を詰め込み型の受験勉強に時間を割かなければならない大学受験の仕組み外注丸投げでテクノロジストの価値が正当に評価できないIT業界の構造、などにも言及している。これも単なる体制批判であれば、類似の書籍は掃いて捨てるほどあるが、本書の価値は筆者の展開する「べき論」に全て行動と現実的な解決策が伴っているところにある。

例えば、「一般の大学受験をせずに、高等専門学校に進学をして専門知識を身につける」という詰め込み受験の迂回策を自らの経験を元に紹介し、会社経営をしながらも大学准教授として教鞭をとり、自分の思い描くこれからの時代に必要な教育を実力不足予備群の若手に実際に提供している。

高校受験の段階で高等専門学校に進学をするという決断までできるのはほんの一握りの人間であり、それが全ての人にとって現実的な解かというと疑問も残る。だが、ぶっちゃけここで提示される個別の解決策の汎用性はあまり重要ではない。本書の胆はAIが日本の未来を救うことでもなければ、ブロックチェーンの可能性でもない。

本書の若手へのメッセージは、日本でひかれている壊れかけレールの上を進むのではなく、誰も入っていったことのない「獣道」を自分なりにかきわけていく胆力を持とうという点と、「獣道」をかきわけていくための技術を身につける手段は、一握りの人に開かれているわけではなく、全ての人に開かれているという点、に集約されると私は読んだ。

筆者は高専筑波大学、東大大学院、IBM基礎研究所とテクノロジストとしての芸を極めるために歩を進めてきたが、高校の普通科の在学生数がおよそ250万人に対して、高専はわずか5万人である。そこから大学に編入し、日本最高学府の大学院に進学するというのは、後から振り返ってみれば「あり」な道ではあるが、誰もが通ることができるようになっているハイキングロードではなく、筆者がかきわけてきた「獣道」だ。

現在のIT業界はオープンイノベーションが極限まで進行し、多くのエンジニアはその上澄みだけを救うことで新規の概念を学習することが可能になっている。

ポイントは気合いを入れてそういった獣道に飛び込もうということだけではなく、AIやブロックチェーンなどのテクノロジストの領域は、学習環境が整備されているということだろう。クラウド上に開発環境が開かれていたりや中核技術がオープンソースで構成されているから、大きな組織に所属することなくとも最先端の技術が学習でき、自力さえあれば途中で野垂れ死ぬ可能性は低いということだ。

なお、こういう学習環境については、テクノロジーの世界だけでなく、インターネットの力で様々な領域に広がっている。ハーバード大学マサチューセッツ工科大学が共同で立ち上げたedXのようなオンライン教育サービスは、テクノロジー領域のみではなく幅広い教育サービスが提供されている。こういった開かれた学習環境を活用し、筆者のような獣道をかき分けていく人材が幅広い領域からでて欲しいと思う。

 

久々に、かつて主宰が散々使い古した紋切り型フレーズに、再登場いただく。

 

「膝を打って、皿が割れそうになった」

 

 

 本の解説、にコメントする、という屋上屋を、敢えてする。

現在のIT業界はオープンイノベーションが極限まで進行し、多くのエンジニアはその上澄みだけを救うことで新規の概念を学習することが可能になっている。

 

   最初から、三段ロケット点火後ぐらいのポジション取りができる、ということか、「オープンイノベーションの最先端をうまくみっけると。

いい波にのっかると、遠くまでいける、ということか。

いい波を見つける地肩、遠くまでバランスをとってサーフィンする技術、など、なまなかじゃない、ほんとの能力が問われる、とうことだろうね。

 

大学など行かなくても、楽々アクセスできるのだから学歴だのなんだのの言い訳がきかない、ということですか。

 

賛成。

 

「獣道」を分け入る強靭な個、が島国一族に、どれだけいるか。

悲観的にならざるを得ない。

 

老いの繰り言じゃ。