昼、自転車で半蔵門のあたりに差し掛かったら、遠く、桜田門の例のビルの方角から黒煙が吹き上げている。
門番のおまわりさんに、火事ですよね、と尋ねると、
「新橋のあたりですから。大丈夫です」というような返事がかえってきた。
火事なのに大丈夫とは、と、一瞬その意味するところがわからなかったが、さすがに腑に落ちるところがあったので、礼を言って、皇居ランナーに逆行しつつ、千鳥ヶ淵方面にいつものように自転車散歩を続行したのであった。
あくまで、新橋で、手前の霞が関、議事堂方面ではない、と。
国家の枢要な施設に対する悪さではない、と。
であれば、「大丈夫」と。
新橋の臣民は焼け死んでもいいのか、などと野暮なことは言わない。
確かに、昨今のあれやらこれやらから、おれも咄嗟に禍事、まがごと、か、と、反応し、おまわりさんに尋ねたのであった。
そうでなきゃ、よりによってこのおれさまが警官にちょっかいだすことなどないです。
大事でないとよいですね。
それにしても、半蔵門から桜田門に向かって見張らしのきくこの場所で蒼空に一条の黒煙が虚空に消えるさまには、禍事、不吉の前兆、との思いを禁じ得ない。
文章も、おのずから、ぼきぼき硬くなる。
全部とはいわないが、仲良くできるところとは、なるべくよろしくやりたいものだ。
ヒトも、国も。