良寛です。この複雑な詩人について、今のところ、最も共感できる人間像を提示している一冊だと思います。
大きな本屋さんに行くと、この人に関する本は、ややもすると、棚半分ぐらい占めていることがあります。
あらゆる識者があらゆる角度から語っている。
まず、禅僧であり、歌人、詩人、そして西行長明の伝統を継ぐ隠者、書家、童とたわむれる自然人。無私の人、等々。
どこから切り込むか。
また、論者の問題意識、思い入れによって、この人は、プリズムのように、色々な色に染まる。
代表的な日本人、あるいは、およそ日本に生まれた男子であれば、心の片隅に常に持ちつづけている生き方を具現した、理想像を投影するような、人物像が、多いですね。
理想化してしまう。
当方、どうしても、以前から、この人、妖しいところがある、一筋縄ではいかない、という思いがありました。
西行にも同じようなことを思うのですが、それはまた改めて。西行には、吉本隆明の「西行」という優れた論考があります。
良寛さんの表現手形式段は、大きく、和歌と漢詩があります。
よく言われるように、私も、歌人良寛と詩人良寛は、その表現する内容が少し異なるように思います。
形式が、自ずから内容を限定するのでしょうか、歌人良寛は、やまとうた伝統の花鳥風月を愛でる、なんというか、ものごとを美しくうたいあげる、そういうところがある。
詩人良寛は、もっと直裁です。こちらのほうに、良寛の真実がある。
今回掲げた書の著者は、漢文学の専門家にして禅に造詣が深く、まさに、この書を著すにうってつけの方であるのみならず、このビッグネームに対し、一定の距離を持ち、冷静に分析しています。
冒頭50ページほどで、簡潔に人物について語っているのですが(後半は詩の評釈)、これが一読の価値あり、です。