第1932回 定期公演 Bプログラム
- ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
- R.シュトラウス/4つの最後の歌
- R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40
指揮:ファビオ・ルイージ
ソプラノ:クリスティーネ・オポライス
今夜は不思議な体験をした。
二曲目、最後の4つの歌。
人生の黄昏をうたう、という、高級老人ホームかN響Bプロ会員のみなさまのためにあるようなこの曲を、定年、停年、諦念、トホホ、命の果てのうすあかり、などの心象がいやでも交錯するこの曲を、お経のように棒読みする今夜の歌い手については、言及を控える。収拾がつかなくなる。
ルイージはこの事態に、健気に対処した。
弱音のやわらかさ、たゆとうニュアンス。
懸命に、ふかふかの座布団を提示する。
手練れの聴き手は、そのふかふかの座布団にのっかるお姫様仕様であるが材質は鉛のオブジェを排除して、座布団のフカフカ感を味わうことに集中することに、おのずからなる。
そのうちに、自分も、そのフカフカ製造に関わる、あたかも自分が指揮者になったように、時空作出に関与するような感覚にとらわれ、失速しそうになる旅客機を操縦しているような、手に汗握るような、スリリングな感覚が終始私を支配したのだった。
思わず文章も硬くなるのであった。
指揮者hあたいへんだよ。
そのご苦労は決して無駄にはならなかった。
後半報われた。
英雄の生涯は、神技であった。
特に、回想になる前にひとくさり盛り上がるところ。
全開。
リヒャルトの演奏も、ここまできたのだね。
パーヴォの最初の年、たしか、に、マロ独奏でこの曲をやったが、なんか、スタジオの収録に立ち会っているみたいで、おれには湿って聞こえた。
今夜聞くと、その同じ曲とはとても思えない。
キュッヘル氏のゆでだこ奏法も相まって、なんともマッチョ、ではあるが、雄渾というより、おもちゃ箱ひっくりかえし、的な、おおらかな、心解放される一夜でありました。
パーヴォの次はこの人でいいんじゃないの。